悪性腫瘍






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悪性腫瘍(あくせいしゅよう)は、がん、悪性新生物とも呼ばれ、他の組織に浸潤あるいは転移し、身体の各所で増大することで生命を脅かす腫瘍である。医学分野では、片仮名でガンとは表記しない。
がんという語はほぼ悪性腫瘍と同義としてもちいられる。本稿もそれに習い悪性腫瘍とがんとを明確に区別する必要が無い箇所は、同一物に対して両方の語を用いている。
言葉の定義
悪性腫瘍はがんとも呼ばれるが、悪性腫瘍とがんを同じ意味で使う事には異論もある。なぜなら腫瘍という言葉は塊(固形がん)を表しているが、白血病などの一部のがんは塊を作らない場合があるからである。またがんは悪性新生物とも呼ばれる。これはもともとmalignant neoplasmの訳語として作られた言葉で、malignantは「悪性の」、neoは「新しい」、plasmは「形成されたもの」を意味するためこのように訳されたものである。したがって時々見かける「悪性の新しい生物」という解釈は厳密には誤りであるが、ヒーラ細胞等のように、患者本人が死亡した後でも、患者から取り出した癌細胞は永遠に培養できる場合があることから、「新しい生物」という考え方も不可能ではない。ただし自然界で自立できる訳ではないので、生物と呼ぶ事には異論もある。(平仮名の)がんには(漢字の)癌(=癌腫)、肉腫、白血病および悪性リンパ腫等が含まれる。一方、漢字の癌は癌腫と同じ意味であり、肉腫や白血病等は含まれない。「がん、癌」は主に臨床で、「悪性腫瘍」は主に病理学などで、「悪性新生物」は主に統計学で使用される傾向がある。以上を纏めると
- がん≒悪性腫瘍≒悪性新生物⊃(癌≡癌腫∨肉腫)
となる。医学分野ではただ「悪性」といった場合には悪性腫瘍を意味する。
逆に、「良性疾患」といった場合にはあくまで悪性腫瘍以外の疾患であるという意味であり、必ずしも治療が容易ということを意味しない。
なお、英語で「癌」を表すcancerは、乳がんの腫瘍が蟹の脚のような広がりを見せたところから、医学の父と呼ばれるヒポクラテスが蟹の意味であるcancerと名づけたと言われている。
疾患概念
悪性腫瘍は腫瘍の中でも浸潤性に増殖し転移するなど悪性を示すもののことである。
ヒトの身体は数十兆個の細胞からなっている。これらの細胞は分裂・増殖したり、プログラムされた死を繰り返して身体を保っているが、正常な状態では、細胞が分裂・増殖しすぎないような制御機構が働いている。
それに対して悪性腫瘍は、生体の細胞がコントロールを失って無制限に増殖するようになったものである。こうしてできた異常細胞の集団が腫瘍であるが、この腫瘍が正常組織との間に明確なしきりを作らず浸潤性に増殖していく場合、悪性腫瘍であると言える。
悪性腫瘍の生物学的な性質は個々の腫瘍によって異なるが、発生母地となった臓器によって一定の傾向がある。しかし、どのような性質を持っているものであれ多くの場合は以下のような機序で生体の生命維持に重大な支障を来し、多臓器不全や身体の衰弱でしばしば死に至る。
- 無制限に栄養を使って増殖するため、生体は急速に消耗する
- 臓器の正常組織を置き換え、もしくは圧迫して機能不全に陥れる
- 異常な内分泌により正常な生体機能を妨げる(→DIC、傍腫瘍症候群、高カルシウム血症)
- 全身に転移することにより、多数の臓器を機能不全に陥れる
上皮内癌
上皮内癌とは、無制限な増殖を示してはいるものの基底膜を超えて結合組織に浸潤することなく、発生母地とその近傍の上皮組織の中での増殖にとどまっている段階の病変である 。潜在的には浸潤や転移の能力を持っている細胞であり、いずれは普通の浸潤癌に進行する性質のものである。したがって多くの場合、可能ならば外科的あるいは内視鏡的に切除される。色々な上皮組織の異形成病変に伴って見つかることが多い。
がん発生の機序(メカニズム)
全てのがんは、細胞の突然変異によって発生する。
身体を形成している数十兆の細胞は、分裂・増殖と、プログラムされた死(アポトーシス)を繰り返している。正常な状態では、細胞の成長と分裂は、身体が新しい細胞を必要とするときのみ引き起こされるよう制御されている。すなわち細胞が老化して死滅する時に新しい細胞が生じて置き換わる。ところが特定の部位の遺伝子(p53など、通常数ヵ所の遺伝子)に突然変異が生じると、このプロセスの秩序を乱してしまうようになる。すなわち、身体が必要としていない場合でも細胞分裂を起こして増殖し、逆に死滅すべき細胞が死滅しなくなる。
このようにして生じた過剰な細胞は組織の塊を形成し、腫瘍あるいは新生物と呼ばれる。腫瘍には良性(非がん性)と悪性(がん性)とが存在する。良性腫瘍は身体の他の部分に浸潤せず、稀には命を脅かすことがある。悪性腫瘍は浸潤・転移し、大抵は生命が脅かされる。
全ての突然変異によりがんになるわけではなく、特定の遺伝子(下述)の変異が発癌に関与していると考えられている。また、発癌には多段階発癌説が提唱されている。すなわち、癌に関与する因子ならびに癌に至るプロセスは単一ではなく、複数の遺伝子変異などが関与すると考えられている。
がん発生に関与する遺伝子群
現在、がん抑制遺伝子といわれる遺伝子群の変異による機能不全がもっともがん発生に関与しているといわれている。たとえば、p53がん抑制遺伝子は、ヒトの腫瘍に異常が最も多くみられる種類の遺伝子である。p53の変異によって、適切なアポトーシス(細胞死)や細胞分裂停止(G1/S 細胞周期チェックポイント)が阻害された場合、その細胞は異常な増殖が可能となり、腫瘍細胞となりえると予想される。p53遺伝子破壊マウスは正常に生まれてくるにもかかわらず、成長にともなって高頻度にがんを発生することから、この考えが強く支持されている。p53の異常は細胞死不全、細胞分裂停止不全によりほかの遺伝子上の変異も誘導すると考えられる。ほかにも多くのがん抑制遺伝子が見つかっている。
一方下記、遺伝的原因の項のように、がんを誘発しやすい遺伝性疾患のなかにその原因遺伝子が分かっているものがある。p53はLi-Fraumeni症候群 (Li-Fraumeni syndrome) の原因遺伝子のひとつでもある。p53はがんの多くの部分を占める自発性がんと、割合は稀なものの研究対象として注目される遺伝性がん、両方に異常が見つかる点で発がんにおける重要性が高いと予想される。
一方、がん遺伝子の変異によって、その遺伝子産物が活性化し、細胞の異常な増殖が可能となり、腫瘍細胞の生成につながることも示唆されている。これは、がん抑制遺伝子産物が不活性化して細胞ががん化するのと対照的である。しかし、現在においてはがん抑制遺伝子の変異が主要であると考えられており、がん研究はがん遺伝子の研究からがん抑制遺伝子の研究に重心が移ってきた歴史がある。
分化度
ヒトを構成する60兆とも言われる細胞は、1個の受精卵から発生を開始し、当初は形態的機能的な違いが見られなかった細胞は各種幹細胞を経て組織固有の形態および機能をもった細胞へと変化してゆく。この形態的機能的細胞の変化を細胞分化という。通常、分化の方向は一方向であり、正常組織では分化の方向に逆行する細胞の幼若化(=脱分化)は、損傷した組織の再生などの場合を除き、発生しない。
しかし、がん細胞は特徴の一つに幼若化/脱分化するという性質があるため、その結果分化度の高い(=高分化な)がん細胞や、ときには非がん組織から、低分化あるいは未分化ながん細胞が生じる。すなわち分化度が高ければ高いほどコントロールを失った度合いが低く、臓器の組織構造を残しており、比較的悪性度の低いものと言える(ただしインシュリノーマ等の内分泌腺癌など、例外はある)。
細胞の発生学的特徴の一つとして、未分化細胞ほど細胞周期が短く盛んに分裂増殖を繰り返す傾向がある。この観点からしても、低分化→未分化の順に悪性度が高くなっていく。
(細胞の幼若化/脱分化と転移とは明確な相関関係はないが)通常は、分化度の低いものほど転移後の増殖も早く、治療予後も不良である。
一方、化学療法は特定の細胞周期に依存して作用するものが多いため、細胞周期が亢進している分化度が低いがんほど化学療法に対して感受性が高いという傾向がある。なお、腫瘍細胞への作用原理・特性などは化学療法の項に詳しい。
がんの発生に関与する要因
「がんの発生機序」の項で述べたように、悪性腫瘍(がん)は、細胞の特定の部位のDNAの幾重もの突然変異が積み重なって発生する。突然変異が生じるメカニズムは多様であり、全てが知られているわけではない。突然変異は、通常の細胞分裂に伴ってしばしば生じていることも知られており、偶発的に癌遺伝子の変異が起こることもありうる。それ以外に、発癌の確率(すなわち遺伝子の変異の確率)を高めるウイルス、特定の遺伝子、化学物質などの要因もいくつか明らかになっている。
しかし、DNA修復機構や細胞免疫など生体が持つ修復能力も同時に関与するので、水疱瘡が、水痘・帯状疱疹ウイルス (Varicella-zoster virus) の感染で起こるといった風な1対1の因果関係は、癌においては示しにくいことが多い。
なお、発癌機構については発癌性の項に詳しい。
遺伝的原因
大部分のがんは偶発的であり、特定遺伝子の遺伝的な欠損や変異によるものではない。しかし遺伝的要素を持ちあわせる、いくつかのがん症候群が存在する。例えば、
病原微生物とがん
一部の悪性腫瘍(がん)については、ウイルスや細菌による感染が、その発生の重要な原因であることが判明している。現在、因果関係が疑われているものまで含めると以下の通り。
なお、癌に関与するウイルスは腫瘍ウイルスの項に詳しい。
これらの病原微生物によってがんが発生する機構はさまざまである。ヒトパピローマウイルスやEBウイルス、ヒトTリンパ球好性ウイルスなどの場合、ウイルスの持つウイルスがん遺伝子の働きによって、細胞の増殖が亢進したり、p53遺伝子やRB遺伝子の機能が抑制されることで細胞ががん化に向かう。肝炎ウイルスやヘリコバクター・ピロリでは、これらの微生物感染によって肝炎や胃炎などの炎症が頻発した結果、がんの発生リスクが増大すると考えられている。またレトロウイルスの遺伝子が正常な宿主細胞の遺伝子に組み込まれる過程で、宿主の持つがん抑制遺伝子が欠損することがあることも知られている。ただしこれらの病原微生物による感染も多段階発癌の1ステップであり、それ単独のみでは癌が発生するには至らないと考えられている。
環境と食事
喫煙と数多くの部位のがんとの間に強い相関があることが、数十年にわたる調査の一環した多数の結果として明らかになっている。数百の疫学調査により、たばことがんとの関係は確認された。他にもこの関係を支持する実例があり、それを示す。合衆国における肺がん死の比率とたばこ消費量の増加パターンは鏡写しのようであり、喫煙が増加すると肺がん死比率も劇的に増加し、近年喫煙が減少に転じると、男性の肺がん死比率も減少する。
thumb|食事は大腸がんの発生率と相関する。
米国国立がん研究所 (National Cancer Institute) の公開資料によると、「食事の違いはがんの危険を決定づける役割を持っている。タバコ、紫外線、そしてアルコールは著明な関係が識別できるのに対して、食事の種類とがんに罹る危険性との関係づけを明らかにすることは困難がある。脂肪とカロリーの摂取制限はある種のがんの危険率を減少させる可能性のあるやり方であると明らかとなっている。(脂肪に富んだ)大量の肉と大量のカロリーを摂取する人々は、特に大腸がんにおいて、がんの危険が増大することが図より見て取れる。」と著している。[Understanding Cancer 米国国立がん研究所(英語)]
予防
日本の国立がんセンターは「がんを防ぐための12ヵ条」を提唱している。[がんを防ぐための12ヵ条 国立がんセンター]
がんを防ぐための12ヵ条
- バランスのとれた栄養をとる(好き嫌いや偏食をつつしむ)
- 毎日、変化のある食生活を(同じ食品ばかり食べない)
- 食べすぎをさけ、脂肪はひかえめに
- お酒はほどほどに(強い酒や飲酒中のタバコは極力控える)
- たばこは吸わないように(受動喫煙は危険)
- 食べものから適量のビタミンと繊維質のものを多くとる(自然の食品の中からしっかりとる)
- 塩辛いものは少なめに、あまり熱いものはさましてから
- 焦げた部分はさける
- かびの生えたものに注意(輸入ピーナッツやとうもろこしに要注意)
- 日光に当たりすぎない
- 適度に運動をする(ストレスに注意)
- 体を清潔に
がんの分類
悪性腫瘍(がん)は単一の細胞を起源とする。したがって、がんは発生母地となった細胞の種類(組織学的分類)と細胞の身体的部位(解剖学的分類)とで分類できる。
組織学的分類
組織型および各腫瘍組織型の記事を参照せよ。
なお、病期分類に関しては、腫瘍学の項か、各癌の記事に詳しい。
成人のがん
成人の悪性腫瘍(がん)は普通、上皮組織に形成され、遺伝的あるいは内因的特性を持つ人々が、外的要因に曝された影響による長期間にわたる生物学的プロセスの結果として生じるとおおかたの場合は考えられている。肉腫は上皮由来ではないが、悪性腫瘍として癌と同様に検査・診断・加療される。
次に例を示す:(「がん」・「癌」については、明確に癌腫の場合は「~癌」、疾患名の場合は「~がん」と表記している)
幼児期のがん
悪性腫瘍(がん)は幼い子供にも発生し、場合によっては新生児にも発生する。異常な遺伝形質プロセスの為に細胞の複製幼若化にたいして抑制が利かないので、制御されない増殖が早期より亢進し、がん進行も速い。
また、肉腫が多いことが特徴として挙げられる。そのため、外科治療による治癒が難しいとされている。だが、抗がん剤が効きやすいという特徴も持つ。そのため、現在では6から7割が治療に成功するといわれている。
幼児期のがんの発生ピーク年齢は生後一年以内にある。神経芽細胞腫は最も普通に見られる新生児の悪性腫瘍であり、白血病 (leukemia) と中枢神経がんがその次に続く。女子新生児と男子新生児とは概して同じ発生率である。しかし、白人の新生児は黒人の新生児に比べてほとんどの種類のがんにおいて大幅に発生率が高い。
新生児の神経芽細胞腫は生存率が非常に良く、ウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫も非常に良いが、他のものはそうではない。
幼児期がんを次に示す:(概ね発生頻度順、「がん」・「癌」は明確に癌腫の場合は「~癌」、疾患名の場合は「~がん」とした)
がんの診断
悪性腫瘍(がん)の診断には2つの状況がある。ひとつは臨床診断(特に病理検査)ともうひとつは集団検診(がんスクリーニンク; 術後検診を含む)である。がんを根治する上で重要な点は「早期発見」と「全摘出手術の可能性検証」が挙げられる。言い換えると、集団検診と臨床診断とが効果的に機能して初めて、がん治療が成功に導かれる。また全摘出手術が困難な状況において、がんの種類によって異なる有効な治療法を選択する目的でも、臨床診断は重要である。一方、全摘出手術が成功したばあいにおいても、再発がん、二次性がんの発生の懸念があるため、その局面においても術後定期検診は重要である。
なお、がんの診断方法の詳細については、腫瘍学の項に詳しい。
がんの細胞診断・生検組織診断
悪性腫瘍(がん)の組織は顕微鏡下での観察、すなわち検鏡によって、形態から鑑別される。判定像では多くの分裂中の細胞が観察され、細胞核のサイズや形状はばらばらであり、(分化した)細胞の特徴が消失している。これらは細胞診でも生検組織診でも確認できる特徴である。組織診では更に、正常な組織構造が失われていることや、周囲の組織 (が一緒に採取されていれば、そこ) と腫瘍との境界が不明瞭であることが観察される。
生検組織診は、過形成、異形成、上皮内癌などと浸潤癌との鑑別に有用である。
がんの治療
悪性腫瘍(がん)治療の代表的なものを次に挙げる
なお、がんの治療の詳細については、腫瘍学の項に詳しい。
一覧
出典
関連項目
外部リンク
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